浮気の定理-Answer-
「お帰りなさい、あなた」


不自然なくらいいつもと同じ口調で、妻はにっこりと笑った。


「……っ!」


一瞬、ゾッとして背筋が凍った。


いつもの妻なのに、いつもの妻じゃない。


そんな不思議な感覚。


「どうしたんだ?こんなとこで」


「別に……なんでもないわ」


「どこか具合でも悪いのか?」


「具合?そうね?精神的になら気分が悪いから、そうなのかしら……」


「なにがあった?」


俺はこの時、心底妻を心配した。


いつも明るい妻が、何か体調が悪いというのなら、聞いてやるべきだろう。


ましてや、精神面なんだと言っているのだからなおさらだ。


「うん……あなたに聞いてもらいたいから、座ってくれる?」


神妙な面持ちで、智子はそう言った。


どうしたというんだ?


金を使い込んだ?


いや、妻は堅実で節約はすれど無駄遣いはしない。


まさか、病気?


いや、精神面だと言っていたし、こないだの健康診断は、すべてA評価で、かなり喜んでいたはずだ。
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