浮気の定理－Answer－
連絡を絶ったはずのあの男が、俺の前に再び姿を現したとき、俺は言いようのない不安と恐怖に襲われた。


よくよく考えてみれば、元々声をかけられたのも会社の前だったわけで、いくらメールアドレスを削除したからって、俺の居場所はあいつに知られていたのだ。


あいつが黒幕だとあの真由という女に言ってしまった手前、後ろめたい気持ちになったけれど、それでもうろたえていると気づかれたら負けだと、俺は必死に虚勢を張る。


「どうしたんですか？こんなところで。もう2度と連絡は取らないと約束したはずですが？」


俺が喋ったということを、あの女はこいつに話しただろうか？


その上で、ここに現れたのだとしたら、文句の一つも言いに来たのかもしれない。


「ええ、確かにあの時はそう約束しました。でも、事情が変わったんです」


やはりこの男のところにもあの女は行ったのだ。


見れば以前会った時よりもかなり憔悴しているように見えた。


「無事、離婚成立したそうじゃないですか。おめでとうございます」


俺が依頼を受けたおかげで離婚できたんだろう？そんな嫌味も込めて言葉をかける。


慰謝料もなく、古い妻を捨て新しい妻を手に入れるという計画は、鬼畜以外なにものでもない。


あんなに美しい木下を陥れてまで手に入れたかった愛人との新しい生活。


今の自分には無いものをこいつは次々と手に入れている。

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