浮気の定理-Answer-
質問に答えることなく睨むように視線をぶつけると、さっきまで低姿勢だった男の表情がにわかに曇る。


それからゆっくりと俺に一歩近づくと、強い口調で言った。


「単刀直入に言います。あなたに渡した金を全額返して欲しいんです」


まさかとは思わなかった。


この状況で俺のところに来る理由なんてそれしかない。


けれど、返そうにも返す金などとうにないのだ。


「あの金なら、あんたも知っての通り借金の返済に使っちゃいましたよ。いまさらそんな事言われても困ります。それに俺はあんたに指示されたとおり、やることはやったわけで、それなのに返せって言うのはちょっとあんまりなんじゃないですか?」


たしかに成功報酬とは言われたけれど、あの時点では成功していたのだ。


あの真由って女が現れるまでは……


それでも男は引き下がろうとしない。


「払う予定のなかった慰謝料を払わなくちゃならなくなって、新居や出産の準備に必要な金が全部桃子にいくはめになったんです。正直、金がなくて困ってる。せめて、あなたに払った分だけでも戻ってくれば、なんとかなるんです。頼む!俺を助けると思って、もう一度借金してでも返してくれませんか?」
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