浮気の定理-Answer-
俺はこのとき、諦めてくれたんだとホッとしていた。


金がないなら、あいつが自分で借りればいい。


だけど、そうじゃなかったんだってことを、俺はこのあと思い知ることになる。




それはそれから数日経ったある日のこと。


俺は急に上司に呼び出され、会議室についてくるよう指示された。


なんだろう?なにかヘマしたかな?


まだこのときはその程度のことしか頭になかった。


だから会議室に足を踏み入れた時、その異様な光景に目を疑った。


え?なんだ?これ……


直属の上司だけじゃない。人事部長や顧問弁護士まで顔を揃えている。


ただごとではない雰囲気に、俺は思わず後ずさった。


「水落くん、ちょっと聞きたいことがあるんだ。とりあえずそこにかけてくれるかな?」


喉の奥が張り付いたようになって、うまく声が出せない。


仕方なく小さく頷くと、促されるままズラッと並ぶお偉方の前に一人腰掛けた。


まるで就活の面接を思い出させるような、緊迫した空気。


それでもこれは面接なんかじゃない。


厳しい顔で俺を見る目の前の上司たちは、次の瞬間驚くことを言ってのけた。


「先日辞めた木下桃子さんを知ってるよね?確か、君と同期のはずだ」

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