浮気の定理-Answer-
「あの……それで向こうはなんて?」


こちらの言い分も何も、相手がなにをどこまで話しているのか分からなければ、話にならない。


まさか自分が指示して俺を金で雇ったなんて言えるはずもないのだから、そこはきっと伏せているのだろう。


なにかの資料を捲りながら、部長が鋭い目つきで俺を見る。


それからゴホンと1度咳払いをしてから静かに口を開いた。


「あちらは、君が木下桃子さんをストーカーしていたとおっしゃっていて、そのせいで彼女は会社も辞めたし離婚することにもなったと」


耳を疑った。自分のことを伏せるどころか、全て俺のせいということになっている。


呆然とする俺をよそに畳み掛けるように言葉が投げかけられた。


「会社での管理責任もあるんじゃないかということで、告訴も視野に入れていると。誠意を見せてもらえるなら示談に応じてもいいとあちらは言ってるんだが、実際のところはどうなんだね」


ここで俺がなにか言ったとして、流れが変わるんだろうか?


この状況で本当のことを言ったところで、信じてもらえないに決まってる。


それに金をもらって木下を脅してたなんてことがバレたらストーカーよりもさらにまずいことになるかもしれないのだ。


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