浮気の定理-Answer-
「私は……なにも知りません。昔、彼女に好意を持っていたことは認めますが、1度想いを伝えて断られていますし、結婚してからは諦めもついていましたので、ストーカー行為をした覚えはないです」


こんなことまで言う必要は無いのかもしれない。


でも細かく事情を話した方が印象がいいんじゃないか、誠実に答えてると思われるんじゃないかという打算が働く。


誤解されたのは、そういうことがあったからなんじゃないかと、けれど決してそんなことはないんだと、必死に訴えかけた。


でもそれが失敗に終わったんだということを、俺はそのあとすぐ目の前に突きつけられることになる。


目の前の上司や弁護士の表情はひとつも変わらなかったのだ。


それどころか、嫌悪感さえ見て取れる。


なんでだ?どうして誰も俺に同情してくれないんだろう?


これは冤罪だ。あれは全部仕組まれたことで、俺は頼まれただけなんだ。


そう叫びだしたいのを必死にこらえて、一番左端に座っている直属の上司に目で助けを乞う。


誰でもいいから、助け舟を出して欲しかった。


一人くらい、俺の言うことを聞いてくれたって良さそうなものなのに…


すぐに目を逸らした上司を見て、俺は絶望感でいっぱいになった。





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