浮気の定理-Answer-
何も思い当たることがないままに、俺は妻の対面の席に腰を下ろした。


それから両手をテーブルの上に重ねるように置き、妻が話し出すのを待つ。


妻は少しだけ微笑んでいたけれど、どこか寂しげな憂いを含んだ表情をしていた。


よほど深刻な話なんだと、その顔を見て思う。


「あなた……今日はどこに行ってたの?」


急にそう振られて、驚いた。


まさか、自分の話になるなんて思ってなかったからだ。


それでも、本題に入る前の、話すきっかけなんだと、俺はこの時思ってた。


まさか、妻の話というのが、自分の浮気のことだなんて、微塵も思わずに……


「あぁ、会社の接待だよ。それより大丈夫か?なんかあったんだろ?」


真由と会った時のいつもの言い訳を、慣れた口調で話しながら、そんなことより早く本題に入れと言わんばかりに俺は聞いた。


「ほんと?」


妻が何を聞いてきたのか、俺は一瞬わからなかった。


――なんだ?なにに対して聞いてる?


「ほんとに……接待なの?」


「……っ!」


俺は狼狽えた。恥ずかしいくらいに。
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