浮気の定理-Answer-
「ごはん、出来たよぉ」



明るくそう俺を呼ぶ声とは裏腹に、笑顔がひきつっているのがわかる。


見られてはいけない姿を見られてしまった。


そんな動揺を隠したかったのかもしれない。



「今日……どっか出かけてたんだ?」



いつもなら、友達と出かけた話を事細かに話す彼女が、その話題にだけ触れない理由。


その違和感に気づいているのかいないのかわからなくて、思わずそう聞いてしまった。


こちらにも分かるくらいビクッと体を一瞬震わせた彼女は、さっきよりももっと引きつった笑顔で



「うん!ちょっと買い物に行ってた。洋服とかたくさん買っちゃったから、ちょっと後ろめたくて……あはっ、ごめん!」



自分のものばっかりだからなんとなく言いづらくて……と。



「そんなの、あゆみだって働いてるんだから構わないのに。たまの休みくらい息抜きしないとな?」



基本は主婦業で、昼間の短い時間のパートタイムでも小遣い稼ぎにはなるわけで、それをどう使おうが文句を言うつもりもない。


それ以上は聞いちゃいけない気がして、俺はそこで話を締めた。


追い詰めるつもりは無い。


もし、別れたいなら彼女の口からそう言えばいい話なのだから。

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