浮気の定理-Answer-
彼女のいなくなった部屋は、火が消えたように静かだった。


いつも笑顔で明るく迎え入れてくれていた彼女の大切さを再認識させられる。


温かい食事や整った部屋、シワのないシャツや何気なく置かれた緑。


一人暮らしの時にはなかった、あゆみの痕跡がそこかしこにまだ色濃く残っている。


頭を冷やすにはこうなった方が良かったのかもしれないとも思った。


あの日から俺は半ば諦めたように、彼女をやんわりと避けていたから。


別れたくはないけれど、仕方ない。


自分みたいなおじさんでは、若い彼女には物足りなかったのかもしれない。


相手が誰なのかなんて知りたくもなかったけれど、きっと同じ年代の若い青年なんだろう。


そう思うだけでどんどん自信を失っていった。


ここでみっともなく引き止めるよりも、解放してあげる方が彼女のためになるんじゃないか、なんて言い訳しながら。


実家に帰ってしまってからまだ三日だというのに、情けないほど俺は彼女が恋しかった。


いろんな言い訳が役に立たないほど寂しくて、なんであのとききちんと話を聞かなかったのか、今頃になって後悔した。


彼女から思いを打ち明けられて付き合ったせいで気づかなかったんだ。


俺ももうとっくにあゆみの事が好きだったんだってことを。
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