浮気の定理-Answer-
迎えに行きたくても、拒まれることを考えると怖くて、なかなか踏ん切りがつかなかった。


実家と言ってもそう遠くない場所にあるのだからすぐに立ち寄れるのに、俺はそう出来なかった。


そうして先延ばしにしたところでなにも変わらないってことは自分が一番よくわかっているはずなのに……


それからあゆみからの連絡も一切ないまま一週間がすぎた頃、仕事で店舗に立ち寄ることになった。


懐かしい顔ぶれが優しく迎えてくれる中、古株の菊池さんだけが厳しい顔で俺を見てくる。


--あぁ、もしかしたらあゆみから何か聞いてるのかもしれないな?


あゆみは結婚してからもこの店でパートとして以前よりは短い時間で働いている。


当然、入った頃から可愛がってくれていたパートさんたちとは仲もよく、元々ここにいた俺のことだって知ってるわけだから夫婦のことを相談してもおかしくはない。


何か言われることを覚悟しながら、菊池さんに挨拶をすると、案の定話があると事務所に連れていかれた。


仕事中ですよ?とは言えない雰囲気に、他のパートさんたちにその場は任せて大人しく菊池さんのあとに続く。


ドアを閉めた瞬間、菊池さんは腕組みしながら俺を睨みつけた。


< 292 / 350 >

この作品をシェア

pagetop