浮気の定理-Answer-
浮気相手のことだろうか?


もしかしたら、そういう兆候があったのかもしれない。


相手は客で、そいつとやけに仲が良かったとかそんな話だとしたら……


ゴクリと唾を飲み込む。


聞きたくないと思った。


でも真実を聞かなければ、前には進めない。


俺は結局いつも自分の中で自己完結するばかりで、自分の気持ちを言ったことも、相手の気持ちをきちんと聞くこともしないまま、諦めてばかりだったのだと気づいた。



「前にパートで来てくれてた清水さんが久しぶりにお店に来てくれたのよ」



--えっ?



思いがけない名前が出て、俺は明らかに動揺した。



「娘さんたち連れて遊びに来てね?ほら、まだあの頃働いてたメンバーもわりと残ってるから少し話もして」



俺がいないことを確認したんだろうか?


自分がいる間一度も顔を見せなかった彼女が、いなくなってから店に立ち寄るなんてそれしか考えられない。



「娘さんたちに新作のDVDを借りたいってねだられたみたいよ?」



それでも来てくれたんだとしたら、もう俺とのこともふっ切れたってことなんだろう。


まだわだかまりがあるとしたら、ここに近づくのも嫌なはずだから。

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