浮気の定理-Answer-
木下のその後
遠くで赤ん坊の声が聞こえる。


--あぁ、そうか……戻ってきたんだ


ぼんやりとそんなことを思いながら目を覚ますと、さっきまで聞こえていたはずの赤ん坊の泣き声はピタリと止んでいた。


……なんだ、夢か


重い体をゆっくりと起こして部屋の中をグルリと見回す。


昨日の夜見た光景と同じ、たくさんのコンビニの袋の残骸とペットボトルが転がっていた。


脱いだままの服や下着もそのままになっている。


頭をボリボリかきながら、とりあえず小さなシングルベッドから体を起こした。


30を過ぎた男には似つかわしくないピンクのカーテンやハートのクッション。


レンタルしたベビーベッドは空のまま放置されている。


小さな冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、そのままごくごくと飲み干した。


カラカラだった喉が潤っていくのを感じて、咳払いをしてみる。


一人きりだと一日中誰とも話さないなんてことは多々あって、だからたまにちゃんと声が出るのかこうして確認してしまうのだ。





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