浮気の定理-Answer-
水落を陥れて必死の思いで取り返した100万は、あっけなく紗英の手に渡り、俺にはなにもなくなった。


子供のためと言われてしまえば渡さないわけにもいかない。


好きにしろと言われた店を手放して、俺にはなにも残らなかった。


紗英と子供のために頑張ろうと思っていた心も折れて、場違いな可愛らしい部屋に引きこもる毎日。


月末になれば家賃を払わなきゃならないのに、働く場所さえ見つからず、そのうち電気やガスも止められてしまうだろう。


なんでこうなった?


こんなはずじゃなかったのに……


迎えに行けるんだろうか?と不安になる一方で、迎えに行ったところであの紗英と上手くやっていけるんだろうか?という新たな不安も重なる。


女は子供が出来ると強くなるとどこかで聞いたことはあったけれど、それは精神的なものだと思っていた。


俺の好きだった紗英はもう戻ってこないような気がして、この先の夫婦の関係が恐ろしくなる。


情けない姿を見せてしまった俺をもう尊敬の眼差しで見ることはないだろうし、例え働いてなんとか家庭を支えたとしても、紗英に主導権を握られてしまうような気がして憂鬱になった。


欲しかった子供。


その代償はあまりにも大きくて、その子供さえ可愛がれるのか自信がなくなっていく。




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