浮気の定理-Answer-
テーブルに置いたペットボトルを取ろうと手を伸ばすと、ふと横にあった姿見が目に入った。


無精髭とボサボサな髪の毛、生気のない目。


今の情けない自分の姿がそこに映っていた。


思わず乾いた笑い声が漏れる。


一年前、自分がこんな風になるなんて誰が想像しただろう?


結局、人を騙して裏切ったツケはしっかり回ってくるものなのだ。


ぼんやりとそのまま一点を見つめていると、ふいに着信音が鳴った。


ずっとなんの音もない部屋で過ごしていた俺は、ビクッと体を震わす。


それほど大きくないはずなのに、やけに耳に響いて慌てて携帯を手に取った。


誰だろう?不動産屋だろうか?


それとも紗英?


画面に表示された名前を見て、俺は自分の目を疑った。


嘘だろ?なんで……


コクンと唾を飲み込む。


信じられなくてしばらく画面を見つめたまま、出ることが出来なかった。



「……はい」



声が掠れる。



「あ……雅人?久しぶり、今……大丈夫かな?」



懐かしい声。その心地いい響きに乾いた心が癒されていく。


同時に襲ってくる罪悪感でいっぱいになりながら、絞り出すように「大丈夫」と一言だけ返した。
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