浮気の定理-Answer-
「ありがとう……助かるよ。正直、困ってて……」



半分だけでも、そう言うつもりだった。


その金があれば引っ越して紗英達を迎えに行ける。


出産予定はまだ先だから産まれてから呼び寄せたっていい。


あとは仕事を見つければ、なんとかなる。


桃子の申し出のおかげで少しだけ希望が見えた気がした。



「わかった、それがあればお店、再開できるのね?」



店?店のことなど一つも考えていなかった。



「いや……店はもう、どうにもならないんだ……だから今、仕事探してて……」



そう言った途端に、桃子の声色が変わる。


しまったと思った時はもう遅かった。



「どうにもって……雅人はそれでいいの?」



正直、桃子と別れてから、店のことより紗英と子供のことしか考えていなかった。


紗英が店を手放すことにあれだけ反対しても、金のない状態では、俺にとって店こそが邪魔な存在になっていた。



「……ごめん、私、お店のために何とかできたらって思ってたけど、そうじゃないなら今回の話はなかったことにしてもらえるかな?

お店は雅人にとって大事なものだって思ってたから、それがなくなっちゃうのは私も辛かったんだけど……

やっぱりもう私の知ってる雅人じゃないんだね?

それに一緒になりたいって言ってた彼女と結婚したんでしょう?だったら、これからはその彼女と二人で新しい生活を築いていかなきゃね?

二人の生活に私が出しゃばるのは違うと思うから……

もう連絡しないね?これが最後。今までありがとう」
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