浮気の定理-Answer-
慌てて取り繕うとした時にはもう電話は切れていた。


呆然と携帯を掴んだままその画面を見つめる。


店を手放すと言った途端、出ていった紗英。


店を再開させるためなら金を返すと言ってくれた桃子。


俺以上に俺には店が必要なんだと思ってくれていたのだ。


そして同時にそれは店を諦めた俺には誰も興味が無いんだってことも示している。


桃子の好意に甘えて、その金で紗英との関係を修復しようとしたことを見抜かれたのだと思った。


しかもあんな仕打ちで陥れた桃子に、俺は哀れまれたのだ。


そして俺を哀れむ余裕が出るほど、桃子にはもう俺と別れたダメージもないように思えた。


少しでも可能性があるなら、紗英と別れてもう一度桃子とやり直す選択肢もありかもしれないなどと思っていた俺に、突き付けられた最後通告。


俺にはやはり紗英しかいない。


一緒に暮らすにはきちんと生活していける基盤を作るしかないのだ。


だったらいつまでもこんな自堕落な生活をしている場合じゃない。


ようやく前向きな気持ちになれて、俺はそれから必死に働いた。


稼げるならどんなことでもやったし、その甲斐あってそれから半年がすぎた頃、ようやく生活していく目処が立った。




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