浮気の定理-Answer-
来月から働くことになったレストランとの契約を済ませるために、戸籍謄本や住民票を取りに役所に向かう。


そのあと、紗英に連絡をして迎えにいくつもりだった。


「ちゃんとしてから」という紗英の言葉は呪縛のように俺の中にあって、その言葉どおりに俺はちゃんとするまではと紗英との連絡を絶っていた。


子供の名前も教えてもらえず、顔も見ることが出来なくても、念願だった自分の子供に会うことを励みにして頑張ってここまでようやく辿り着いたのだ。




「番号札68番の方、受付番号2番まで起こし下さい」



無機質な機械音が流れ、自分の番号が呼ばれる。


受付まで書類を取りに行って金を払うと、何の気なしにその紙に目を通した。



「……え?」



見間違いかともう一度目を凝らして読み返す。


桃子との離婚のあと、当然紗英の名前が妻の欄に記載されているものだと思っていた。


そして出生届けが出されていれば、子供の名前もそこに載っているはずだ。


なのに、桃子と別れた事実しかそこにはない。


俺の戸籍には俺一人だけの名前がポツンと記載されている。


なにかの……間違いだろうか?


途端に鳴り響く心臓の音。


血が逆流するかのように頭に昇っていく。


震える手でそれを握りしめながら、呆然と自分の名前を見つめていた。






< 316 / 350 >

この作品をシェア

pagetop