浮気の定理-Answer-
「お客様?どうかなさいましたか?」
役所の人にそう声をかけられてハッとする。
それでもとっさに動くことが出来なかった。
再び声をかけられてようやくのろのろとその場を離れる。
嫌な予感が頭をよぎった。
すぐに紗英の番号を呼び出して電話をかけてみる。
呼出音が鳴りそれがとだえてすぐ紗英の名を呼ぼうとしたのに、無機質な声がそれを遮断した。
「おかけになった番号は現在使われておりません」
何度かけてみても流れてくる音声は変わらない。
なにが起こってる?
1度だけ紗英からあった連絡。
子供が生まれたという報告は二ヶ月前ほどのことだった。
ちゃんとしていないのに連絡をしてはいけないと思い込んで、それ以来連絡はしていなかったけれど、当然俺が立ち直るのを待ってくれているんだとばかり思っていた。
桃子との離婚が成立してすぐに婚姻届を出すことになったときの、紗英の言葉を思い出す。
「雅人さんは離婚のこととかお店のこととか、いろいろ忙しいでしょう?大丈夫、私が出しとくから。ちょうど病院に行くついでだし」
出されていない婚姻届。
自分が出すと言っていた紗英の言葉。