浮気の定理-Answer-
役所の前にある広場をふらふらと歩きながら、大きな木の下にある木のベンチに腰掛ける。


妊娠は嘘じゃなかった。


だんだんと膨らんでいく腹をこの目で見ていたし、触れてもいたから間違いない。


どこからだ?どこから歯車が狂ったんだろう?


思い返せば、俺は紗英の両親にも会ったことがない。


結婚するのだから挨拶に行くべきなのはわかっていたし、ましてや子供もいるのだからと紗英にはずっと会わせてくれるよう頼んでいたのだ。


でも、紗英の答えはいつも




「うちの両親厳しいから……大学卒業して就活に失敗して、実家に居ずらくてアルバイトしながら一人暮らしして……あげくに不倫して子供まで作ったとか言えないよ。おまけに雅人さん今無職でしょう?ちゃんとしてからじゃないと会わせられない」




それでもと言わなかったのは、自分にも都合がよかったからだ。


後ろめたいことをしている自分が認めてもらえるはずもないと、どこか尻込みしていた。


よく考えてみれば、そんな紗英が実家に帰って子供を産むなんて話がおかしい。


両親には俺のことも子供のことも伝えていないはずなのに、突然子供を身ごもって戻ってきた娘を普通に受け入れたりするだろうか?







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