浮気の定理-Answer-
BARにて⑪
「すみません、ちょっといいですか?」
そう聞かれてその客を見ると、ずいぶん昔に1度だけ見たことのある顔だった。
そのときは確か、後輩だろう男性と二人で作業着という場違いな格好だったからよく覚えている。
妻が浮気しているかもしれないと荒れた飲み方をしていた彼は、今日はとても穏やかな優しい顔で、心なしか嬉しそうな表情をしていた。
服装もカジュアルながら綺麗にまとめられていて、直感的にこれからデートなのかな?と思わせるような雰囲気を漂わせている。
「はい、なんでしょうか?」
にこりと微笑みながらそう言えば、彼は少し照れたように話し始めた。
「実は妻と待ち合わせているんですけど、お恥ずかしい話、こういう洒落た酒には詳しくなくて……いつもは家でビールか焼酎を飲むくらいなので、妻が来たら何かみつくろってやってもらえませんか?」
微笑ましい内容に心がほっこりする。
そうか、あの時の問題は解決したんだ。
そう感じた。
元さやに収まって、こんな風にデートをするくらいに修復できたということなんだろう。