浮気の定理-Answer-


「かしこまりました、なにかお選びいたしますね?ところで、今日は奥様との記念日かなにかですか?」



そう聞いてみると、彼ははにかみながらコホッと小さく咳払いをして「そうなんです」と嬉しそうに笑った。



「実は結婚記念日でして」



何でもない夫婦にとっての記念日なら、きっとここまで嬉しそうに妻を待つことはないのだろう。


一度壊れかけた夫婦だからこそ、記念日がひときわ感慨深いものになるのだ。



「そうでしたか、それはおめでとうございます」



心の底からそう思えて、お祝いの言葉を送る。



浮気や不倫ばかりが取りざたされる昨今、正直そういう客を目にすることも多い。


だからこそ、こんな風に夫婦という形を大切に育んでいるお客様を見ると心がほっこりと癒されるのだ。


いろいろあったとしても、きっとこのご夫婦にはそれを跳ね返すだけの絆があったのだろう。


ずっと円満にいて欲しい。


そう強く願いながら、これから来るであろう奥様のカクテルは何ベースにしようか?と自分までワクワクした気持ちになってあれこれ選び始めた。
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