浮気の定理-Answer-
「あ、でも……」と、思い出したように言ったありさの表情がにわかに緊張したのを見て、ドキリとする。



「社員は異動とか結構あったみたい。店長とか副店長なんかはもう違う人になってるって、菊池さん言ってた」



一気にそう言い切ると、ありさは俺の目を見ることなく、コーヒーカップを二つ持ってテーブルに置いた。


きっと俺を安心させようと言ったに違いないのに、ありさのわずかな緊張が、逆に俺を不安にさせる。


ありさ自身もそれがあいつを意識してるんだってことには気づいてないんだろう。


今さらよりが戻ることもないだろうし、家庭を壊すつもりもありさにないことは分かってる。


でも理屈じゃないのだ。


忘れたくても忘れられない。そして忘れてはいけない事実なんだと思う。


ありさをそうさせたのは俺なのだ。


あのとき、俺が自分勝手で自己中心的で、家庭のためとか言いながらまったくありさを気遣うことがなかった罰。


それでもありさは最後には俺を選んだ。


ならばそれを受け入れて死ぬまで添い遂げようと決めたのは俺だ。


そしてそれは償いでもあるけど、なによりありさが大切だって気持ちが1番強い。
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