浮気の定理-Answer-
BARにて⑫
「もしもし?花、元気か?あぁ……うん、パパは元気だよ。ちゃんとママのいうこと聞いていい子にな?」
電話は別のスペースでと注意しようとしたけれど、内容を聞いているとすぐに終わりそうな気配に思いとどまる。
時間的にそう混みあっていないし、なによりカウンター席にはこの男性一人だ。
愛おしそうに話す口ぶりからは娘を思う父親の顔がのぞいている。
きっと仲のいい家族なんだろうなと微笑ましく思っていると、意外にもそうではなかった事が次の会話で感じ取れた。
「悪いな?こんな時間に……花の誕生日は楽しみにしてるから。それと養育費は足りてるか?もし足りないようなら言ってくれ。すぐに振り込むから。いや……これくらいしか俺に出来ることはないんだから、させてくれ。うん、じゃあまた……あぁ、おやすみ」
携帯を静かにテーブルの上に乗せると、静かに息を吐きながら、グラスを手にした。
ゆっくりと氷が溶ける様を眺めるように、口をつけることなくただグラスを揺らしている。
背筋を真っ直ぐに伸ばした姿勢は、きっと真面目で几帳面な性格なのだろうと予想できた。