浮気の定理-Answer-
それでも母は俺をとことん無視して、納戸を自分の部屋にするべく片付け始めている。



「やめろよ!その部屋はいずれ花の部屋にする予定なんだ!お前なんかに使わせてたまるか!」



涼子のことでただでさえ混乱しているのに、わけのわからない御託を並べて俺の家に居座ろうとする母親相手に冷静になんかなれない。


こんなに声を荒らげてこんな下品な物言いなどいつもならけしてしないのに、俺はガキみたいに大声をあげながら母親に掴みかかった。


それでも悲鳴一つあげない母親に、一瞬ビクッとなる。


幼い頃、この目が怖かった。


いい子にしてないと捨てられるかもしれないという恐怖が俺を支配していた頃の、冷たい目。


捨てられるくらいなら、自分が捨てればいいんだと気づいて自分だけの家族を作り、自分の居場所を守ってきたはずなのに。




「その花ちゃんも涼子さんも出ていったんでしょ?」



今の俺とは正反対の静かな落ち着いた声。


お前に何がわかる。もとはといえば、お前のせいで俺は……



「もうこの家には勇しかいないの。あんたが変わらなきゃ、涼子さんも花ちゃんも帰ってこないのよ?」


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