浮気の定理-Answer-
現実を改めて叩きつけられて、俺はその場にへたりこんだ。


掴んだままだった母の腕はそのままに呆然となる。




「離婚はしない。絶対に……やっと俺の居場所を作ったんだ。帰ってきても暗くない部屋で涼子が食事の支度をしてまっててくれる。花もパパって俺に抱きついて甘えてくれる。花にはさみしい思いをさせたくなかったから涼子には専業主婦になってもらったし、なによりあいつは俺を愛してるはずなんだ。なのになんで急にこんなことになった?帰ってこないってなんなんだよ……ここがあいつの家だろう?」




ブツブツとうわ言のように言い続ける俺を、母がふいに抱きしめた。


痛いくらいにきつく、抱き抱えるようにして……




「勇、ごめん!お母さんが悪いの!全部お母さんのせいだから!あんたはなんにも悪くない!だから、せめて涼子さんがいなくなった分、お母さんにあんたの世話をさせてちょうだい?いつも明かりをつけて今度はお母さんが待ってるから!ご飯も作って待ってるから!ね?そうしよう?それで涼子さんのことはいったん解放してあげよう?」




母が何を言っているのかわからなかった。


解放ってなんなんだろう?まるで俺が涼子を縛り付けてたみたいに聞こえる。


そうじゃない。涼子は俺がいなきゃ何も出来ないんだ。だから教育してやってただけなのに。


銀行時代からずっとそれは変わっていない。


涼子だってそんな俺を好きになったんだろう?
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