浮気の定理-Answer-
しばらく黙ったまま、探るように俺の話に耳を傾けていた妻は、唇を噛み締め泣くのを我慢しているような顔になった。


浮気をしたことを認めたことに、ショックを受けているのかもしれない。


でもあんな証拠をつきつけられては、今さら言い逃れする方が拗(こじ)れるような気がした。


だから正直に認めた上で、でもその行為は諦めさせるためのものなんだと……妻を大切に思う気持ちは変わらないんだと……


そう伝えることが、この状況を打破できる唯一の方法だと思った。


「馬鹿だったよ……

そんなことで諦めてくれると思ったなんて

一度だけだって言ってたのに、お前にバラすって脅されたんだ

俺はお前を失いたくなくて……

相手の要求を呑むしかなかった……すまない」


声を詰まらせ、涙を流す。


妻を信用させるためなら、自然に涙も流れ落ちた。


たぶん、妻の前で泣くなんて、はじめてのことだ。


だからこそ、信じてくれるような気がした。


――頼む!騙されてくれ!俺を許すと言ってくれ!


妻が口を開くまでの間、俺は生きた心地がしなかった。
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