浮気の定理-Answer-
離婚に応じてから、涼子は俺からの電話にも出てくれるようになった。


今ではもう俺から逃げたことへの怒りはすっかりおさまっていたから、穏やかに話ができていると思う。


たまに連絡をすれば、電話口に花を出してくれたし、涼子も普通に「パパだよ?」と話してくれていて、離婚したことがまるで夢だったんじゃないかと思うくらいだった。


単身赴任で俺だけが別の場所にいるような感覚。


それは自分自身も一人ではないからそう思えるのかもしれないと感じていた。


母の存在はそれほど大きく俺の精神的な支えになっているんだと認めざるを得ない。


今思えば、これまでの結婚生活で俺はいつも苛立っていたし、常になにかに怯えていた。


この幸せがなくなってしまうんじゃないかという不安が、涼子への暴力に繋がっていたのかもしれない。


無理矢理言わせていた「愛してる」という言葉も、聞くだけで満たされたし安心できた。


それでもなお不安だったのは、それが涼子の本当の言葉じゃないとどこかで分かっていたから。


無条件に愛してくれるという存在は、これほどまでに人の心を安定させるのだと初めて知った。


幼い頃、誰もが得ているはずのそんな愛情を受けられなかった自分はどこか歪んでいて、それを分かっているからこそ、母はやり直そうと言ってくれたのだ。


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