浮気の定理-Answer-
「どこの……お嬢さんなの?」


やっと妻の口から出た言葉は、最初に放ったのと同じ真由のことを詮索するようなものだった。


どこで知り合い、どういう経緯でそうなったのかを知りたかったんだろう。


俺は、迷った。


言っていいものかどうか……


真由の父親とは、以前、妻も何度か会ったことがある。


もし妻が、真由に会いに行くなんてことがあれば、俺の嘘なんてあっという間に暴かれてしまうだろう。


だけど今さら口に出してしまったものを元には戻せない。


一か八かだった。


俺と別れたいと言った真由が、そのためならもしかしたら俺の嘘に付き合ってくれるかもしれないという希望。


「先輩の……娘さんなんだ……」


「先輩って……吉岡さん?」


「あぁ……」


「どうして……?」


リアルな存在は、妻をさらに追い詰めた。


切羽詰まったような声で、そう問いかける妻に、俺はその経緯を淡々と説明した。


車検に来たのが、先輩ではなく娘だったこと。


食事に誘われ、接待みたいなつもりで何度か会ったこと。


そして、俺を好きだと告げられて、一度だけ思い出をくれとせがまれたこと。
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