浮気の定理-Answer-
「い、いや……でも……」


「なに?私が行ったら何か問題でもあるの?」


「いや、そんなことはな……」


「大丈夫よ、一応あなたの先輩だもの

冷静にお願いしてくるわ」


そう言った妻の顔は、さっきまでの悲しそうなものでも悔しそうなものでもなく、揺るぎない強さを感じさせるものだった。


その気迫に押されて、俺はそれ以上何も言えなくなる。


また疑われるようなことはしたくなかったからだ。


――妻の提案を受け入れよう……


それで妻の気がすむのなら、先輩との縁が切れることなど大したことじゃないようにさえ思えた。


「すまない……

お前にそんなことをさせることになって……

でも……ありがとう」


俺は妻にそう言って、テーブルに額がくっつくほど頭を下げた。


先輩を訪ねることに反対せず、妻に礼を言うことで、さっきの説明に信憑性を持たせる。


妻は満足したように、ふぅと息を吐くと、ゆっくりと椅子に腰かけた。


「大丈夫よ、あなた……
必ず別れさせてあげるから……」


同情するような声で、俺にそう言うと、妻はそっと俺の手に自分の手を重ねた。
< 37 / 350 >

この作品をシェア

pagetop