浮気の定理-Answer-
石田から木下に姓が変わり、狙っていた男性社員も一斉に諦めたように見えた。


だけど俺は諦めきれなくて、いつまでもあいつへの思いを引きずっていたように思う。


飲みに行けば隣を死守し、あわよくばと思っていたことは否めない。


そんな俺をだんだん疎ましく思ったのか、木下はあからさまに避けるようになった。


同じように木下への思いを断ち切れないでいる山本には信頼を寄せていたくせに……


見下したような態度は、俺をイラつかせ、山本に対しても嫉妬のような感情を抱いていた。


同じ部署で、悔しいけれど、俺はあの二人よりも仕事が出来ない。


そんな事実も、俺の劣等感を煽るには充分だった。


「自分の妻を誉めるのもなんですが、いい女だと思いませんか?」


この男は、いったい何が言いたいんだろう?


俺に木下を誉めてもらいたいのか?


男の意図がわからず、俺は小さく溜め息をついた。


そんなことのために、俺をこんな場所まで連れ出したんだとしたら、迷惑な話だ。


「そうですね?同期の中でも人気ありましたよ?」


仕方なく俺は客観的な意見を述べた。


自分がどう思うかよりも、一般的にモテるんだという事実を。
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