浮気の定理-Answer-
――この男、頭おかしいのか?


信じられない思いで男をまじまじと見つめる。


けれど男は特に表情を変えることなく、穏やかに微笑んでいた。


「なぜ……そんなことを?」


有り得ない申し出に、俺は理由を問う。


すると男は少しだけ表情を曇らせ、俯いた。


「実は……桃子と離婚したいと思ってるんです」


「はっ?」


思ってもみなかった男の告白に、俺は耳を疑った。


――離婚……あの木下と?


高嶺の花だった木下を落としたこの男を、誰もが羨んだに違いない。


なのに、木下からならいざ知らず、この男の方から離婚なんて言葉が出るなんて……


「それと、俺に木下を好きにしていいってことと、なんの関係があるんですか?」


離婚したいなら勝手に離婚すればいい。


俺を巻き込む意味がまったくわからなかった。


「他に、一緒になりたい女がいるんです」


俯いていた顔をふいに上げて、男ははっきりとそう言った。


「……浮気してるって……ことですか?」


「浮気……になるんでしょうか?

僕の気持ち的には、浮気じゃなく本気なんですけどね……」

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