浮気の定理-Answer-
水落の場合②

「乾杯!」


幹事が気分良さそうにグラスを持ちながら、そう声を上げた。


1ヶ月ぶりの同期会は、俺にとって違う意味を持つ。


相変わらず木下の隣の席を陣取り、じっと様子を窺っていた。


この光景はいつものことだから、周りも木下自身も、特に俺を警戒することはない。


ポケットに入っているものを、そっと手で確認してみる。


これを木下のグラスに入れるのは、至難の技だ。


木下だけじゃなく、周りの目も気にしなくてはならない。


もうすでに俺の手は、汗で湿ってしまってる。


――焦るな、まだ始まったばかりだ


怪しまれないためには、もう少しみんなが酔っぱらう必要があった。


自分は酔わないように、酒を飲むふりをしながら、チャンスを待つ。


まあ飲んだとしても、きっと酔っぱらうどころではなかったかもしれないが……


横に座る木下は相変わらず色っぽい。


この体が今日、俺のものになるんだと思ったら、下半身が反応しそうになって、慌てて目を逸らした。


木下はいつものように、俺に背を向け、反対側に座るヤツと話している。


山本はといえば、今回は机を挟んだ向こう側に座っていた。
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