浮気の定理-Answer-
木下がなんの躊躇いもなく、自分のグラスを手に取った。


俺に背は向けたままで……


隣に座ることは許されても、会話をすることはほとんどなく、反対側の誰かと話しているのはいつものことだ。


だから、逆にこの計画が実行に移せたわけだから、感謝しなくてはいけない。


そしてこのあと何が起こったとしても、それはこの女の自業自得なのだ。


俺を気遣っていれば……


俺に背を向けなければ……


俺と話をしていれば……


こんな目に、合わずに済んだかもしれないのに。


なにも知らない木下のペースは早く、もうすでにグラスは空になりつつあった。


おかわりさえしようと、別の誰かに頼んでいる。


そろそろ効いてくるはずだと思った頃、ふいに木下の体が揺れた。


大丈夫か?と誰かの声が聞こえる。


山本が一目散に木下めがけて飛んできた。


介抱されながら、木下は安心しきったように山本を見てる。


それに無性に腹が立って、俺は横から声をかけた。


「今日は俺が送っていくよ」


訝しげにこちらを見た山本が、何を言ってるんだ?というような目で俺を見る。

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