浮気の定理-Answer-
初めてかもしれない。


木下に触れるのは……


肩を抱きながら、俺は興奮する気持ちをなんとか抑えて、なに食わぬ顔で木下を立たせる。


外に連れ出し、タクシーに乗り込むまで、山本は心配そうな面持ちで着いてきていたけれど、車のドアが閉まると諦めたようにその場に立ち尽くしていた。


後部座席で俺の肩にもたれながら眠る木下は、俺を山本だと思っているのかいつもとは違って無防備だ。


なんの躊躇いもなく当然のように、タクシーの運転手に自分の家の住所を告げると、俺は木下の重みと鼻を掠める彼女の髪の匂いを楽しんだ。


目を瞑り、これからのことを思う。


ここまできたら、後はなんの障害もなく目的は達成されるだろう。


あの男の言う通りならば、木下は朝までぐっすり眠り続けるはずだ。




「お客さん、着きましたよ」


少し、眠っていたらしい。


タクシーの運転手の声に、俺はハッとして目を開けた。


金を払い、木下を抱き抱えるように車から降ろす。


タクシーが走り去ってしまうのを確認しながら、自分のアパートを見上げた。
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