浮気の定理-Answer-
俺からのメールに気づいた木下は、あからさまに怪訝な表情で俺の方を見た。


目が合って、俺が静かに笑うと、慌てて顔を背ける。


その様子を余すことなくジッと見ていると、メールを開いたらしい木下が、明らかに動揺した様子で、小さな悲鳴を漏らした。


忙しなく動く右手は、目の前のものを消すための作業だろう。


色を無くした木下の顔を見つめながら、俺は満足だった。


俺に逆らうからそんな目に合うんだ、と心の中で舌を出す。


この後、木下はどうするのか?


俺を責める?


いや、木下は俺に近づきはしないだろう。


山本に相談する?


いや、それもない。あの写真のことも、俺と一夜の関係を持ったことも、知られたくはないだろうから。


実際には、そんな関係でなかったことは、俺だけしか知らない。


木下は俺に体を委ね、そしてあの写真を撮られたと思っているのだ。


きっと、旦那に対しても後ろめたい気持ちで一杯なんだろう。


本意ではないにしろ、他の男に抱かれてしまったと思っているんだろうから。


その旦那が仕組んだ罠だとも、知らないで……

< 69 / 350 >

この作品をシェア

pagetop