浮気の定理-Answer-
木下に近付いていくと、彼女は壁に張り付いたまま、顔を横に背けた。


だからといって、俺が彼女に怒ることはない。


このくらい、想定の範囲内だからだ。


そっと両手で彼女の頬を掴み、ゆっくりと俺の方に向かせる。


そのまま顔を近付けていくと、木下が小さく叫んだ。


「……やだっ!」


唇が触れるくらいの距離。


彼女が顔を背けるたび、俺はまた頬を掴み唇を重ねようと何度も試みる。


――この女、あの画像を見せられて、まだ抵抗する気か?


一度くらいなら、抵抗するだろうとは思っていた。


だけど、こんなに何度も抵抗されるなんて、想定外だ。


少し焦りながら、唇を寄せると、彼女が俺を突き飛ばした。


力一杯突き飛ばしたつもりなのだろう。


けれど、男の俺にはびくともしない。


少しだけ、彼女との距離が空いただけ。


諦めない抵抗に、俺はいささかイラついた。


――こいつ、写真のこと、忘れてんのか?


忘れてるなら、もう一度思い出させてやるだけだ。


俺は首をコキッと鳴らして、彼女の目を見て言った。

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