浮気の定理-Answer-
「なぁ、わかったろ?

さっきの写真ばらまかれたくないよな?

だったらさぁ

また、俺といいことしようよ?」


脅迫にも似たそれは、彼女が抵抗できなくなる言葉だと思えた。


また、と付け足すことで、お前と俺は一度そういう関係になってるんだと印象づける。


彼女の瞳が一瞬、揺れた。


けれど、そのあとすぐに真っ直ぐな瞳で、俺を睨み付けていた。


「なぁ、わかってんだろ?もう観念しろよ」


もう一度、念を押すようにそう言っても、彼女の表情は変わらない。


お前になんか屈しないとでも言ってるかのような、強い意思表示。


構わず、彼女に近づこうとしたその時、間のわるいことにエレベーターのドアが開いた。


――しまった!


そう思ったときにはもう、木下は俺の体をくぐり抜け、走り去っていた。


追いかけようと振り返った俺を振り切るように、彼女は勢いよく受付を走り抜け、正面玄関に向かってる。


これ以上追いかければ、人目につく。


そう思った俺は、踏み出した足をグッと堪えて、エレベーターの中に留まった。

< 72 / 350 >

この作品をシェア

pagetop