浮気の定理-Answer-
水落の場合④

「隣、よろしいですか?」


そう言って、その女は突然、俺の前に現れた。


どうぞ、と返事をしたあと、何とはなしにその女を見上げる。


わりと露出度の高い大人っぽい服装に、濃い化粧。


でもよく見ると、小柄で可愛らしい顔をしている。


――タイプじゃない。


瞬時にそう思った。


けれど、その顔に似つかわしくない胸のボリュームに、思わず目が奪われる。


柔らかそうだな、なんて思ったかもしれない。


「この店、よく来るんですか?」


気がついたら、俺はそう話しかけていた。


隣に座るくらいだから、もしかしたら俺に興味があるのかもしれない。


そう、思ったからだ。


彼女は胸の谷間を強調しながら、えぇと柔らかく微笑む。


「僕もよく来るんですけど、お会いしたことなかったですよね?」


そんなに広い店じゃない。


会ったことがあればわかるはずだと、俺はそう言った。


「私は何度か、お見かけしたことありますよ?」


そう言われて、俺はまじまじと彼女の顔を見た。


見かけたこと、あっただろうか?


覚えが、ない。


首を傾げていると、彼女は頬杖をつき、俺の顔を覗きこんできた。

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