浮気の定理-Answer-
彼女の姿が見えなくなり、少しだけ不安になる。


もしかしたら、親に帰るように言われたとかなんとか、断ってくる可能性もなきにしもあらずだ。


こんなおいしい話を、むざむざ棒に振るバカもいないだろう。


俺は、おもむろに席を立った。


彼女が戻ってきたら、すぐに店を出れるように、会計を済ましておこうと思ったからだ。


もちろん、彼女の分も。


支払いまでされたら、断れないだろうという計算だ。


そのとき、後ろから声をかけられた。


「水落さん、そこにいたんですか?

探しちゃいましたよぉ」


彼女が戻る前に、会計を済ませる予定だったのにと、内心チッと舌打ちをする。


けれどそんな思いを隠すように、紳士的な笑みを浮かべ、女性が喜びそうな台詞を吐いた。


「あ、ここは僕に払わせて?

楽しい時間を過ごさせてもらったから、そのお礼」


彼女は申し訳なさそうな顔でこちらをみたけれど、やがてにっこりと笑って、ごちそうさまですと言ってくれた。


会計を済ませ、店を出る。


さりげなく彼女の腰を抱いて、タクシーを捕まえた。
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