浮気の定理-Answer-
BARにて③

目の前の客はだいぶ酔っていた。


なにか嫌なことでもあったんだろうか?


たまに見る顔だけれど、こんなに無茶な飲み方をするのは見たことがない。


「お客様、少し飲みすぎではないですか?」


いつもなら、そんなことは言わない。


けれど、痛々しくて見ていられなかった。


そっと氷を浮かべた水を、彼の前に置く。


彼はもうすっかり瞼が落ちそうな目で、こちらを見上げた。


「あ……すみません

ちょっと……飲みすぎ……ました」


まだ恥ずかしいと思う気持ちは残っているのか、彼は絡んでくることなくそう謝ってくる。


それからありがとうと言って、水を一気に飲み干した。


「もうお帰りになられた方が……」


ここで潰れてしまう前に、そう促した。


見たところ、一人で来ているようだし、待ち合わせにしては飲みすぎだ。


酔っ払いを帰すのはもっとも体力がいる作業だし、なんとなくこの男性をそんな風に帰すのは忍びない気がした。


「そう……ですね?

そろそろ……帰らないと……」
< 91 / 350 >

この作品をシェア

pagetop