浮気の定理-Answer-
BARにて③
目の前の客はだいぶ酔っていた。
なにか嫌なことでもあったんだろうか?
たまに見る顔だけれど、こんなに無茶な飲み方をするのは見たことがない。
「お客様、少し飲みすぎではないですか?」
いつもなら、そんなことは言わない。
けれど、痛々しくて見ていられなかった。
そっと氷を浮かべた水を、彼の前に置く。
彼はもうすっかり瞼が落ちそうな目で、こちらを見上げた。
「あ……すみません
ちょっと……飲みすぎ……ました」
まだ恥ずかしいと思う気持ちは残っているのか、彼は絡んでくることなくそう謝ってくる。
それからありがとうと言って、水を一気に飲み干した。
「もうお帰りになられた方が……」
ここで潰れてしまう前に、そう促した。
見たところ、一人で来ているようだし、待ち合わせにしては飲みすぎだ。
酔っ払いを帰すのはもっとも体力がいる作業だし、なんとなくこの男性をそんな風に帰すのは忍びない気がした。
「そう……ですね?
そろそろ……帰らないと……」