浮気の定理-Answer-
うつろな視線をさ迷わせて、なんとか意識を保たせようとしている。


歳は、30才前後だろうか?


長身で、柔らかな笑顔の優しそうな男性だ。


「恋愛って……難しいですね……」


ポツリと彼がそう呟いた。


そうか、女絡みでこんな飲み方をしていたのかと、なんとなく察する。


あえて返事はせずに、彼の言葉に耳を傾けた。


好きな女性がいたらしい。


向こうも自分を好いてくれていたのだと……


彼女の全部を受け止める覚悟だったけれど、それは叶わなかったのだと彼は涙を溢す。


家庭のある女性だったのだ。


結局、彼女は夫と子供の元に帰っていったという。


一通り話し終えると、男性はスッキリした顔で立ち上がった。


聞いてくれてありがとうと……


心の整理がつきましたと……


そう言って帰っていった。


最後に、これで良かったんですよね?きっと……と悲しそうに微笑みながら……


願わくは、今度は幸せな恋愛をしてほしい。


あなたならきっとそれが見つかるはず。


客と店員という垣根を越えて、心の底からそう思った。

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