浮気の定理-Answer-
飯島の場合①
初めて彼女に会ったのは、5月も終わりの頃だった。
スラッとした身長に、ボーイッシュな髪型。
体育会系なイメージの彼女が、先輩の女性に絡まれてる。
思ったよりも逃げ腰な態度で、先輩の意見を素直に聞いていた。
もっと言い返すかと思ったのに、青ざめた困ったような顔で、一生懸命返事をしてる。
普段ならあまりパートさん同士の会話に口を挟むことはないんだけれど、そのときはつい、助け船を出してしまった。
「菊地さんだって、昔はよくお子さんのことで休んでたみたいじゃないですか?
店長に聞きましたよ?」
ベテランの菊地さんは、もうお子さんも大きくてシフトに貢献してくれるありがたいパートさんなんだけど、おしゃべりが多いのがたまにきずだ。
昔の自分は棚にあげて、新人パートさんの不安を煽るのはいただけない。
彼女は履歴書を確認したところによると、確かまだお子さんは小さかったはずだ。
小学生の女の子が二人だったか?
子供が理由で休んだりするなと、遠回しに言われたら、不安になるに決まってる。