題名のない恋物語
しばらくして理紗は落ち着いたのか体を起こした。
「はらへった…」
そう小さな声で呟き、俺も体を起こす。
「飯食いに行くか」
服についた砂を払って立ち上がり、理紗に手を差し伸べる。そっと繋がれたら手に満足して、俺たちはきた道を戻った。
恋人として手を繋ぎながら歩いているだけで、さっきとは全く違う気分だった。自然と足取りが軽くなってしまう。
ショッピングモールの中に入ったところで、理紗は何かを思い出したように「あ」と声を上げた。そして俺を見つめると、笑顔を向ける。
「言い忘れてた。私も涼のことが好きだよ」
「っ」
「あはは、真っ赤」
「……お願いだからそういうことは暗いとこで言ってくれバカ」
俺の心臓は、たぶんしばらくうるさいままだ。
題名のない恋物語
それはよくいる男女の、よくある話で、だけど二人だけの秘密の物語だった。
Fin.