舞桜
哀愁
ガラガラと、車の車輪が音を立てていた。

「そぅ………あの人、また、行くの。」

私は脇息にもたれて、何となく、近くにあった檜扇を手の中で弄んでいた。

「お方様もお可哀想で………」

女房が言った。

可哀想?
そう思ってくれるのは、お前だけだわね。

このお邸の北の方という、まあ、立派な肩書きを持ってはいるけれど、何なのかしら、これは。

私の住んでいるのは、広いこの邸の、塗籠。
寝殿造は基本的に開放的なつくりになっている。
そのはずだ。
< 3 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop