舞桜
だが、私の住まう塗籠だけは、四方を壁に囲まれている。
「あの人は、何も私にはくれなかったわね。」
この塗籠に置いてあるのは、私が実家から持ち出てきた、いくつかの最低限の調度品。後は、昔から慣れ親しんだ物語、絵巻、琵琶をひとつ。
私には、哀しいかな、浮気症の夫がいる。
あれは、今日も私には黙って、何処ぞやへ通いに行ったらしいわね。
「あの人、何処へ行かれるの。」
別に、浮気が嫌なわけではない。
ただ、この待遇が嫌なのだ。
「六条か、九条か、でしょうか。」
「あの人は、何も私にはくれなかったわね。」
この塗籠に置いてあるのは、私が実家から持ち出てきた、いくつかの最低限の調度品。後は、昔から慣れ親しんだ物語、絵巻、琵琶をひとつ。
私には、哀しいかな、浮気症の夫がいる。
あれは、今日も私には黙って、何処ぞやへ通いに行ったらしいわね。
「あの人、何処へ行かれるの。」
別に、浮気が嫌なわけではない。
ただ、この待遇が嫌なのだ。
「六条か、九条か、でしょうか。」