ほろ甘ガトーショコラ
私は席を立つ。
私はもう泣かない。悲しさや悔しさを糧にして強く逞しくなっていく。そんな自分でありたいから。自分自身を認めてあげられる、守屋先生が言ってくれたーーーそんな自分になりたいから。
え、と守屋先生は目を丸くする。私は口角を上げて笑ってみせた。
「今年のガトーショコラがとびきり最高に美味しかったんなら……来年作るガトーショコラはどうなりますかね?なにせ伸びしろのある私が作るんだもん。……先生、胃袋奪われないように気をつけて下さいね?」
やっぱり私の強がりは治らないらしい。でも、これくらい言って自分に自身がつけれるようにならなくちゃ。
ーーーそうでしょ、先生?
守屋先生はハハッと豪快に笑い声を上げる。
「さすがだな、澤田!じゃあ来年は心して食べないとな。もう今から1年後が楽しみだな!」
私は荷物を両手に持つ。
「先生、今日はありがとうございました」
深々と頭を下げると守屋先生は私の頭を軽くデコピンした。
「楽しみにしてるよ、澤田」
私はニッと歯を出して笑う。
「もちろん、任せといて下さい」
私は社会科準備室のドアを開く。
「では先生、また」
「おう、またな」
「失礼しました」
潔く開いたドアからは夕日が差し込んだ。
社会科準備室を出た私の足取りは軽かった。まるでたった今失恋したとは思えないくらい、すがすがしい気持ちだった。
私はもっと強くなる、逞しくなる、成長するんだ。
「今日のこと、梨香に報告しないとなぁ」
私の足は部室へと向かう。大幅な遅刻になってしまったのはなんとか大目に見てもらおう。
きっと私は来年も守屋先生にほろ甘のガトーショコラを渡すのだろうーーー
守屋先生に美味しいって、そう微笑んでもらうために。
fin.