優しい雨 ~一年後の再会~
『雨宿り・・・する?』
 雲の切れ間に見える淡い空色の傘を差した彼女。
 その時に見た長い黒髪と対照的な白い肌に白いワンピース姿。
 ずっと鮮明に記憶に残っている。
 どこか遠くを見ているような、不安気な瞳も。
 その場だけの思い出にはしたくなくて、弱みにつけ込むようでズルイと自覚しながらも、彼女に触れた。
 腕の中で涙を流した彼女を強く抱きしめた。
 その彼女が今、延ばせば届く距離にいる。
 4月になって柚莉花が同じ学校に転校してきたのを知った智博は、驚きと嬉しさで蒼に報告…をした所、偶然桜にも聞かれてしまった。
 その時に『智博の恋を実らそう計画(桜案)』が発足したのだ。
 名前を聞いた蒼が文芸部で小説を発表していた人だと思い出し、文化祭共同案を考えついた。
『焦りは禁物。下手に押したらひいちゃうからね。偶然を装うのよ』
と女心を説いた桜の勢いに従ってしまっている。
「主演〟智博〝脚本〟桜〝だからな」
 茶化したように言う蒼に智博は憮然として言い放つ。
「そこに、演出〟蒼〝をいれろ」
 いつになく真剣な物言いに、思わず蒼は声を出して笑った。
< 12 / 23 >

この作品をシェア

pagetop