優しい雨 ~一年後の再会~
智博の事を前から知っているのだ、と。
部室で紹介された時、初対面のフリをしていたから。
「…家族の方の協力が過ぎたからだと……」
「えぇ」
開き直った柚莉花の態度に蒼は誠実な笑顔を向けた。
「親の仕事の関係で、僕も幼い頃からいろんな舞台を見に行く機会が多くて、智博と知り合ったのは中三の時でしたね」
演技の実力はあったのに窮屈そうに演じていた主役の少年。
父の仕事が舞台を中心に写真撮影しているカメラマンということで、稽古場への出入りの時に一緒に連れて行ってもらった時に、智博と知り合った。
実力でと採った劇の主役でも周囲のやっかみも含まれて親の力と陰口を囁かれ、なら実力で文句を言われないようにと練習する中でますます才能を伸ばし、他の劇団員との演技力の差と共にどんどん確執が深まってしまった。
『智博にこの劇団は合わないよ』
蒼の言葉で踏ん切りがついたのか、すっぱりと智博は退団した。