優しい雨 ~一年後の再会~
「智博…あのね……」
 心の奥底にしまい込んでいた想い。
 再会してから、会ったばかりの智博に惹かれた理由がなんとなく判った気がした。
 お互い、これから始まろうとする生活の不安の中に誰かを信じ抜く強さが彼の中にあったこと。人を信じられず一人だと思っていたから。
 自分にはなかったその強さに憧れを持ち、惹かれたのだ。
 そして、あの時と変わらない彼を目の前にして。
「忘れようと思ったけど、忘れられなかった」
「それで」
 智博は先を促すように言うと、ゆっくり柚莉花に両手を伸ばし、彼女の掛けていた眼鏡を引き抜いた。
「会えば、こうなると判っていたから……」
 裸眼でもはっきりと見える距離にある智博の顔が、さらに近づき、触れ合った唇。
「うん。俺が逃がさないから」
 激しくなりはじめた雨が突風に煽られて二人がいた場所まで濡らしていく。
立ち上がった智博は柚莉花の持っていた傘を優しく奪い取り、広げる。
「遠山先輩、家まで送りますから傘、貸してください」
 そう言って差し出された手に柚莉花は躊躇いもなく掌を重ね、握り返した。
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