幽霊と私の年の差恋愛
モノローグ「何度だって、あなたと」
「はぁ……あったか〜い……生き返った気分……」
ホテルの広いベッドで裸のまま寝転がりながら、手足を伸ばして思わず呟く。蒸気した赤い頬は、暖かいというより暑いと訴えているのが明白だった。
「外は寒いからねぇ。それより、そんな人間らしい感想が君の口から出てくるなんて、おっさん感動しちゃうなぁ」
ベッドの端に上半身裸で腰掛けた彼が、口の端をニヤリと上げながらそう宣う。
「……見た目は若いのに、相変わらずおっさん発言してますよ」
そう半眼で告げると、彼は大袈裟に目を見開いて驚いてみせる。
「君も知ってると思うけど、僕は見た目はともかく、中身はれっきとしたおっさんよ?」
はいはい、と適当に相槌を打ち、ふとこのホテルまでの道すがら、すれ違った何組かのカップル達を思い出していた。
「それにしても、結構いるんですね、私達みたいなちぐはぐカップルって。自分がそうなるまで全然気付かなかった」
駅にもいたし、あそこのカフェにも、ここのホテルの受け付けでもすれ違ったよね、と指折り数えていると、ふわりと彼の大きな手のひらが髪を撫でてくる。
くしゃりと髪に指を絡められ、ただそれだけなのに再び身体に熱が沸き起こった。
「それって僕達みたいな年の差カップルってことかい?」
「ふふ……ほら、電話、鳴ってますよ」
彼の冗談めかした問に思わず笑みをこぼしつつ、少し前から備え付けのサイドボードの上で身体を震わせているスマホに視線を送る。
「はぁ……まったく空気の読めないやつもいたもんだねぇ。せっかく君とのとびっきり甘い時間を過ごしてるってのに」
相手の名前を確認し、ああ、仕事の電話なら仕方ないか……と独り言を呟く彼の横顔をまじまじと見つめる。
優しいアッシュの癖毛は、長く伏せられた睫毛の色とお揃いで天然のそれと分かる。
その睫毛が縁取る色素の薄い瞳も白い肌も日本人離れしているのに、全体的には和風の精悍な顔立ちだ。
なるほど、純日本人にはなかなか出せない味だな、などと考えているうちに、彼の電話は終わっていた。
「うーん、そろそろこれも乗り換え時かなぁ? ガタがきてるんだよねぇ」
サイドボードにスマホを雑に放り投げながら、彼は眉間を親指と人差し指で揉んでいる。
これは彼の癖のようなものだ。
「え? この前変えたばっかりじゃないです? もうちょっと大切に使って下さいよ」
非難の声を上げると、彼はまた悪い笑みを浮かべながら、長い指先で顎をすくい上げてくる。
そのままゆっくり顔が近付いたかと思うと、弧を描いたままの唇に貪られる。
色々な角度から攻め込まれて息もままならなくなった頃、彼はやっと解放してくれた。
「君は気に入ってるのかもしれないけど、研究者たるもの常に最新のものを求めたくなるものでねぇ」
再び、食べられてしまうんじゃないかと思うほどの口付けが降ってくる。
「んっ……大切に、してたのは……初代、だけでした、ねっ……」
息継ぎの間に何とかそれだけ告げると、彼の笑みは深くなった。しかし、それは今までの意地悪そうなそれではない。
「当たり前でしょ? だって、君がくれた大切なものだったもの」
いつの間にか、彼の唇は首を伝い、鎖骨を伝い、身体中を満たしていった。
(こんな幸せな人生なら、永遠に続くのも悪くないな……)
朦朧とする意識の中、自分の捧げたすべては、確かに今、彼のものなのだと実感した。
ホテルの広いベッドで裸のまま寝転がりながら、手足を伸ばして思わず呟く。蒸気した赤い頬は、暖かいというより暑いと訴えているのが明白だった。
「外は寒いからねぇ。それより、そんな人間らしい感想が君の口から出てくるなんて、おっさん感動しちゃうなぁ」
ベッドの端に上半身裸で腰掛けた彼が、口の端をニヤリと上げながらそう宣う。
「……見た目は若いのに、相変わらずおっさん発言してますよ」
そう半眼で告げると、彼は大袈裟に目を見開いて驚いてみせる。
「君も知ってると思うけど、僕は見た目はともかく、中身はれっきとしたおっさんよ?」
はいはい、と適当に相槌を打ち、ふとこのホテルまでの道すがら、すれ違った何組かのカップル達を思い出していた。
「それにしても、結構いるんですね、私達みたいなちぐはぐカップルって。自分がそうなるまで全然気付かなかった」
駅にもいたし、あそこのカフェにも、ここのホテルの受け付けでもすれ違ったよね、と指折り数えていると、ふわりと彼の大きな手のひらが髪を撫でてくる。
くしゃりと髪に指を絡められ、ただそれだけなのに再び身体に熱が沸き起こった。
「それって僕達みたいな年の差カップルってことかい?」
「ふふ……ほら、電話、鳴ってますよ」
彼の冗談めかした問に思わず笑みをこぼしつつ、少し前から備え付けのサイドボードの上で身体を震わせているスマホに視線を送る。
「はぁ……まったく空気の読めないやつもいたもんだねぇ。せっかく君とのとびっきり甘い時間を過ごしてるってのに」
相手の名前を確認し、ああ、仕事の電話なら仕方ないか……と独り言を呟く彼の横顔をまじまじと見つめる。
優しいアッシュの癖毛は、長く伏せられた睫毛の色とお揃いで天然のそれと分かる。
その睫毛が縁取る色素の薄い瞳も白い肌も日本人離れしているのに、全体的には和風の精悍な顔立ちだ。
なるほど、純日本人にはなかなか出せない味だな、などと考えているうちに、彼の電話は終わっていた。
「うーん、そろそろこれも乗り換え時かなぁ? ガタがきてるんだよねぇ」
サイドボードにスマホを雑に放り投げながら、彼は眉間を親指と人差し指で揉んでいる。
これは彼の癖のようなものだ。
「え? この前変えたばっかりじゃないです? もうちょっと大切に使って下さいよ」
非難の声を上げると、彼はまた悪い笑みを浮かべながら、長い指先で顎をすくい上げてくる。
そのままゆっくり顔が近付いたかと思うと、弧を描いたままの唇に貪られる。
色々な角度から攻め込まれて息もままならなくなった頃、彼はやっと解放してくれた。
「君は気に入ってるのかもしれないけど、研究者たるもの常に最新のものを求めたくなるものでねぇ」
再び、食べられてしまうんじゃないかと思うほどの口付けが降ってくる。
「んっ……大切に、してたのは……初代、だけでした、ねっ……」
息継ぎの間に何とかそれだけ告げると、彼の笑みは深くなった。しかし、それは今までの意地悪そうなそれではない。
「当たり前でしょ? だって、君がくれた大切なものだったもの」
いつの間にか、彼の唇は首を伝い、鎖骨を伝い、身体中を満たしていった。
(こんな幸せな人生なら、永遠に続くのも悪くないな……)
朦朧とする意識の中、自分の捧げたすべては、確かに今、彼のものなのだと実感した。
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